【あんどーなつ】和菓子も漫画も職人技。未完の秀作。

ただの和菓子を持ち上げるだけの「スイーツグルメ漫画」ではなく、和菓子を通して日本伝統文化の職人技と職人魂、江戸っ子の粋と心意気を描く、秀逸な日常コメディ&人間ドラマです。

丁寧な構成と職人技の作画

設定の妙で原作者の西ゆうじさん、後は作画と漫画の点でテリー山本さんと高く評価していて、珍しく単行本を買っていました。

素直な筋立てでしっかり読ませてくれて、自分好みの漫画でしたね。

和菓子を語る上では「茶道」に触れないわけにはいかないのですが、これについても本作の本筋に据えてしっかりと描いています。

私の様な茶道に縁のない人間にとっての「異世界」である茶道世界を、主人公「奈津」と茶道の家元さんとの人間ドラマを通して「血の通った話」として描く手腕はお見事でした。

特筆すべきは、1話読み切りなどの短編がどれも秀作だったことです。数話で構成される「~編」的なエピソード同士のすきまに、幕間話的に入るものなのですが、中々どうして読ませてくれます。

キャラクターと舞台設定がしっかりできてさえいれば、うまいきっかけを与えればよいお話ができるという好例だなあと思いました。

短編は作者の実力とセンスがそのまま出るもの。さっと始まって読者を楽しませ、ぱっと終わる。これまた江戸っ子好みなのではないでしょうか。

また、テリー山本さんの漫画の…言い方良く分かりませんが「漫画力」が素晴らしく、作画を楽しみに読んでいた向きもあります。

一番気に入ったのは「清潔感」。整理された描線と計算された「ヨゴシ」がまさに職人技です。

雑多な下町風景や厨房をディティールを入れて作画しているのに、ぜんぜんごちゃっとしてない。それどころか、そのコマの中でどこに読者の視線を誘導させるのかもキッチリ計算されてます。

和菓子というか日本料理文化にも通じる「清潔感」、お寿司屋さんなんかに行っても感じられるあの清潔感ある空間が、この漫画の作画には満ちています。

新海誠さんの映画作品での、ちょっと不自然なあの清潔感とはまた違うんですよね。イケメンじゃなくても生存権がある清潔な世界と言うか。

なので、1ページ当たりの情報量がかなり詰め込んであるのに、読者はそれと気づかずテンポよく読めていってしまうんです。ほんとこれ、職人技だなあと思います。

絵の構図 = カメラワークも、抑制されていながら(派手なアップとか多用しない)見せるべきシチュエーションや関係性をうまくとらえていて、本当に漫画の教科書みたいです。

おっさんとおばさん、そしてじじいとばばあが素晴らしく魅力的に作画されてるのも良いですね。

不可解な不和

原作者さんの西ゆうじさんは、漫画作画担当のテリー山本さんの起用がそうとう不満だったらしく、連載が始まってすぐにSNSで悪しざまにけなす(というか絶望をともなう罵倒)など、ありえない酷い反応をしてましたが、何を嫌ったんでしょうね。

テリー山本さんは、丁寧な作画と漫画的な構成が抜群にうまいベテランで、ヒット作もある漫画家。漫画を描く人なら「とりあえず読んで勉強しとけ」くらいに漫画が上手い人。

前述の通り、「職人」を描く本作の雰囲気にぴったりな画風と実力のある、職人漫画家だったと思うのですが……。

西ゆうじさん原作の他の漫画は、だいたいが萌えに寄った画風の漫画家が起用されていたので、そういうイメージだったのかもしれません。

たしかに、特に第一話の主人公「安藤奈津」、鼻が団子っ鼻で、今どきの漫画の女子作画としては野暮ったかったですが……。でも割とすぐ調整されて可愛くなっていきましたね。

ほんと普通に、テリー山本さんで良かったと思いますよ私は。

突然の訃報と未完と

そんなこんなで、私はこの漫画を単行本で買って追っていたのですが……。

最新刊の巻末で西ゆうじさんの訃報と、「あんどーなつ」終了について書かれていて、一瞬頭が止まってしまいました。20巻でおしまいとの事です。

西ゆうじさんのご冥福をお祈り申し上げます。

※故人を惜しむ気持はもちろんですが、今描きかけのエピソードだけでもプロットを残していただいて、テリー山本さんに続きを書いてほしかった…というのはやはり故人に失礼でしょうね。

 

たくさんの日本人に読んでもらいたい秀作

未完ではありますが、本作は基本的には読み切りか、数話構成での中編で組み立てられており、どのエピソードも良く練られた秀作です。

ただ和菓子を持ち上げるだけの「スイーツグルメ漫画」なのではなく、和菓子を通して日本の伝統文化や芸能の職人技と職人魂、江戸っ子の粋と心意気を描こうという本作は、なるほどうまく考えた秀作だと思います。

丁寧で極上な演出をする漫画作画も職人技です。

まず漫画として面白いのは当然として、日本人の漫画教養の1つとしてもお勧めです。たくさんの人に読んでもらいたいなあと思います。

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