21世紀の「パップラドンカルメ」こと「ハルヴァ」
昔の子供向けソングで「パップラドンカルメ」ってありましたよね? 「べらぼうに美味しい」という噂だけが一人歩きして、誰もその実態を知らない、そんな魅惑のお菓子について子供や大人が思いを馳せるという名曲でした。
あれの21世紀版があります(少なくとも私的には)。
それが「ハルヴァ」です。
事の起こりはとあるエッセイ本
このお菓子について知ったのは、米原万里さんが書かれたエッセイ本「旅行者の朝食」でです。
(Amazon)
旅行者の朝食 (文春文庫)
この本は、幼少期をソ連圏内で過ごした日露翻訳者であり食いしん坊でもある米原万里さんが、世界の食べ物関連で書いたエッセイを集めたもので、そのエッセイの一つにこの「ハルヴァ」がありました。
彼女がソ連に暮らしていた少女時代に、友達のギリシャ旅行土産に食べさせてもらったその「ハルヴァ」は、もう滅茶苦茶美味くて一生の逆トラウマレベルに彼女の思い出に残ったと言います。
ですが何が悲しいって、米原さんはそれから大人になるまでずうっと、事あるごとにハルヴァを探して買い求めても、あの美味しいハルヴァに出会うことはなかったのです。
そしてその探索の中で米原さんは、ハルヴァは実は西はスペインから東はロシアを含めモンゴルやインドにまで大きく広がる、とてつもなく規模の大きい「お菓子の概念」である事を知ります。
ひとくちに「ハルヴァを探す」と言っても、米原さんのハルヴァが「どのハルヴァ」なのかがわからないと探し様がなく、そして「じゃあ世界にあるハルヴァってどんなの?」と調べようとしたところで、ほぼ世界の半分くらいのエリアを網羅しなければならず、もうわけわからん状態な案件だったんですね。
そのエッセイでは「それでも!それでも!」とハルヴァを探し求める経緯が情熱を持ってつづられており、読んでいる自分もそれを早く知り、願わくば買い求めて食べたいと思ったものでした。
エッセイの中では「あのハルヴァの味」にたどり着いたが…
そして、エッセイの中で米原さんはついに、メーカーこそ違えど「あの味(を超えてたらしい)」のハルヴァを、大人になってからの友人のお土産で入手します。
おお、ついに!
で、それはどういう物でどこのメーカーで、どの文化圏のハルヴァなの? 買うにはどこに行けばいいの?
…と、読者としてはワクワクがMAXになりますよね。
でも、米原さんは、あんなに恋焦がれていた「あのハルヴァの味」に再開したというのに「こんなんだったらもっと買っておけば良かった」という友人の台詞を書いたきりで、その場を収めてしまいます。
は!?
おい!
おい!?
そして次の段落からは、ハルヴァの文化的背景や歴史的な裏取りをしていく内容にエッセイは移行していきます。
正直、「いや、そんなんいいから!もうちょっとゴールになったハルヴァについて詳しく!」と思いながら、最後にまとめがあるだろうとページをめくっていくも、情報が収束する気配はありません。
話は途中でターキッシュデライトに脱線し(これは「ナルニア国物語」にも出てくる有名なトルコのお菓子。読むまでもなく関係ない)、最後にハルヴァに戻ってきたと思ったら、今度はハルヴァ職人による「本式のハルヴァの作り方の奥深さ」の情報を開陳。 「もっとすごいハルヴァがあるのだな」と米原さん大満足でエッセイは終わってしまいます。
いや!
ちょっと待て!
俺もあんたの食べた「あのハルヴァの味」を味わいたいんですけど!!
エッセイのオチとして文化的な内容で締めたいのはわかりますし、その内容もすごく読み応えが合って面白かったのは事実なんですが、あのエッセイの導入部分から中盤にかけてまでの流れ的に、このオチはちょっと「いけず」ですよね(笑)。
ハルヴァを捜し求める旅、スタート
世界をまたにかける仕事をしていた米原さんでさえ探しあぐねた「ハルヴァ」。 とうてい私が探せるものではありませんが、あれからAmazon含め、海外の商品はネットで随分と買い易くなりました。
あれ以降、8年ほど私は、通販状況がハルヴァに追いついてやいないかとちょくちょくチェックしつつ、手打ちでの検索でも折を見て探し回っております。
数年前にNHKの「グレーテルのかまど」で「ハルヴァ」が取り上げられた時には、ついに謎が解けるか!? と超期待して見たんですが「おそらくこれだろう」という内容でまとめて断言はしてなかったので、完全には腑に落ちませんでした。
番組の脚本的にも「いろいろなハルヴァがあるんだよ」な構成でしたし、何といっても「あのハルヴァはどこに行ってどうすれば手に入るのか」がわからないままですからね。 でもレシピはありがたく頂戴しました!
さて、以降、私はいくつか通販や実店舗で買い求めて「違うけどうまい」「違うしちょっとアレだな」みたいな体験をちょいちょいしましたし、レシピを見つけて作ったりもしました。
それについて今後「ハルヴァシリーズ」として書いていこうと思います。 本記事は、その「導入編」ということで……。 この記事シリーズの最後で、いつか「なるほどこの味か!」にたどり着けることを祈願して止みません。
※米原さんは2006年に亡くなられました。 彼女は私に多くのウィットと雑学……そして謎を残した偉人として、今も私の中で行き続けています(飲み会の笑い話ネタで結構お世話になってます。「ズロース一丁!」)。
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